「SNSはやったほうがいい」と言われても、自社と同じ規模の会社が何をして、どうなったのかが見えないと、始める判断はしにくいものです。そこでこの記事では、国の中小企業白書・小規模企業白書に掲載された実在の事例だけを取り上げます。数字はすべて一次資料の記載に基づきます。
まず顧客側の前提です。総務省の令和7年通信利用動向調査では、個人がインターネットを利用する目的・用途のうち「SNS(無料通話機能を含む)の利用」が82.3%と最も高くなっています。顧客の多くは、すでにSNSの上にいます。
結論を先に言います。事例に共通するのは、フォロワー数を追うことではなく、「誰に届いているかを確認すること」「投稿を来店・購入の導線につなぐこと」「数字を見て次の発信と仕入れ・製造に生かすこと」でした。順に、データと事例で見ていきます。
中小企業のSNS活用はどこまで進んでいるか
2026年版小規模企業白書では、BtoC(一般消費者向け)が主たる小規模事業者のSNS活用状況が示されています。
| 区分 | 割合 |
|---|---|
| 大いに活用している | 14.6% |
| ある程度活用している | 31.8% |
| 活用していないが、関心はある | 26.0% |
| 活用しておらず、関心もない | 27.5% |
「大いに」と「ある程度」を合わせると46.4%で、BtoC事業者の半数近くがSNSを活用しています。一方、関心はあるが活用していない事業者も26.0%います。BtoBが主たる事業者では活用は23.8%(大いに5.3%+ある程度18.5%、BtoBが主たる事業者 n=4,747、同図)にとどまり、顧客が一般消費者かどうかで温度差があります。
もう一つ、業績との関係です。同白書では、「競合他社との差別化」と「外部環境の情報収集」の両方に取り組む事業者を「マーケティングに取り組んでいる」とし、売上高の傾向を比べています。取り組んでいる事業者(n=4,143)では売上高「増加」が53.8%で、どちらにも取り組んでいない事業者(n=2,758)の34.2%を上回りました。
これはSNS単独の効果を示す数字ではありません。マーケティング全体の取組と業績の傾向に関係が見られる、という読み方が正確です。SNSはその中で「顧客の声と反応を継続的に集める道具」と位置づけると、事例を読み解きやすくなります。
現在の業務と発信の状況をお聞きしたうえで、確認すべき点をご案内します。
事例1:客層の思い込みを正したら、売上が創業時の2.5倍に(株式会社ありの子・大分県大分市)
菓子製造・販売業の株式会社ありの子(資本金100万円)は、デコレーションケーキが人気の菓子店です。2012年6月の開店当初はケーキが売れ残り、原価率50%に悩んでいました。
同社は店舗周辺3kmの3,000軒への営業に加え、(公財)大分県産業創造機構のITセミナーでSNSの情報発信を学び、発信を始めました。ところが、フォロワーが1,000人ほどついても客足は伸びません。専門家派遣制度でFacebookの運用分析を受けたところ、フォロワーの多くが見込み客とはいえない層でした。
そこで来店客へのアンケートで客層を分析すると、SNSのメインターゲットは30代女性と想定していたのに、実際は子や孫を持つ40代から60代の女性が中心でした。専門家から時事ネタを交えた発信も学び、白書の取材時点では、Twitter(現X)を1日3回、Facebookを週1回、Instagramを1日1回、ホームページを週2〜3回更新していました。
結果として、Twitterのフォロワーは40,000人近くになり、売上高は創業時と比べて2.5倍に増えたと白書は記しています。大きな投資は行わず、労力を惜しまず発信を続けたことがポイントとされています。
さらに同社は、Googleの店舗情報サービス(当時のGoogleマイビジネス)の閲覧数・検索数と、数年分の同日の売上データを組み合わせて需要を予測し、作る量とシフトを組む運用に進みました。売れ残りが減り、原価率は32%に下がっています。反応データを、発信の改善だけでなく製造量の判断にまで使った事例です。
事例2:インスタライブで顧客との接点を保ち、売上を前年水準まで戻した(株式会社クローネ・神奈川県鎌倉市)
家具小売・卸売業の株式会社クローネ(従業員3名、資本金300万円)は、感染症の流行で2020年4月に来店客数が前年比で4割減り、売上げも激減しました。
同社は自社ファンとの接点を増やすためSNSの発信を強化し、Instagramのライブ配信を始めます。商品紹介だけでなく、視聴者と一緒に新商品を企画するなど、双方向のコミュニケーションを重視した点が特徴です。
2020年3〜9月の売上げは前年比60〜80%程度に落ち込みましたが、ライブ配信が軌道に乗った2020年10月以降は前年を上回る水準で推移し、2021年3月期の売上高は自社ECサイトでの販売がカバーして、前年と同程度を確保する見込みとされました。SNSを「宣伝」ではなく、来店できない時期の接点維持とECへの導線として使った事例です。
事例3:SNSの発信をECへの誘導につなぎ、売上は取組前の約1.5倍に(株式会社花工房あげたけ・鳥取県北栄町)
生花販売の株式会社花工房あげたけ(従業員9名、資本金300万円)は、商圏を全国へ広げることを狙い、2020年にECサイトを開設しました。SNSでは商品紹介や入荷情報を発信してECサイトへの誘導を強化し、季節の花を定期配送する「お花の定期便」などの新サービスも展開して、リピーターの獲得に工夫を凝らしています。
白書によれば、売上高は取組開始前の約1.5倍に増加し、ECの売上げは2020年以降、前年比2倍のペースで毎年伸び続けて、売上高全体の約25%を占めるまでになりました。実店舗も体験型の営業に転換し、県内外からの集客を実現しています。
成果はEC開設と新サービスを含む取組全体のもので、SNSだけの効果とは切り分けられません。ただし「発信→ECで買える導線→定期便でリピート」という流れを設計した点は、SNSを単体の宣伝で終わらせない参考になります。
事例4:地元事業者とのコラボをInstagramで発信し、口コミが広がった(旅館 比与志・埼玉県秩父市)
宿泊業の旅館 比与志(従業員6名、個人事業者)は全7室の旅館です。感染症流行下で、地元の創作料理店と連携して朝食を二十四節気にちなんだ内容に磨き上げ、タロット占いやエステ付きプランなど、地元事業者とコラボレーションした宿泊プランを企画しました。
その様子をInstagramで発信したところ、30代女性を中心に口コミで高評価が広がり、2020年6月の営業再開後も順調に予約が入ったと事例集は記しています。自社単独ではなく、地域の事業者と組んだ企画そのものを発信の材料にした事例で、当社の地元である埼玉の事例でもあります。
事例から見える、有効活用の共通点
4件の事例を並べると、共通点が見えてきます。
| 共通点 | 事例での現れ方 |
|---|---|
| 届けたい相手を実態で確かめる | ありの子:アンケートと運用分析で、想定(30代女性)と実際(40〜60代女性)のずれを修正 |
| 一方向の宣伝にしない | クローネ:ライブ配信で視聴者と一緒に新商品を企画 |
| 投稿の先に導線を用意する | 花工房あげたけ:入荷情報の発信からECサイトへ誘導し、定期便でリピートにつなげる |
| 発信材料を事業の中から作る | 比与志:地元事業者とのコラボプランそのものを発信 |
| 数字を見て運営に生かす | ありの子:反応と過去の売上から需要を予測し、原価率50%→32% |
逆に、うまくいかなかった局面も事例は正直に書いています。ありの子には「フォロワーが増えても客足が伸びない」時期があり、原因はフォロワーの質でした。フォロワー数だけでは売上に結びつきません。誰に届き、来店・購入にどうつながったかを見ることが先です。
自社で始めるときの手順
ここからは、代表である私自身の知見として、共通点を自社で再現する手順を整理します。
- 顧客がいるSNSを1つ選ぶ:まず顧客層が使うSNSを1つに絞ります。同時に複数を始めると、兼務の担当者が続きません。
- 届けたい相手を言葉で書く:年齢層だけでなく「誰の、どんな場面で役に立つか」まで書きます。想定は来店客の声や反応で確かめ、ずれていたら直します(事例1)。
- 投稿の先の導線を決める:来店予約、EC、問い合わせのどれにつなぐかを決め、プロフィールや投稿からたどれるようにします(事例3)。
- 続けられる頻度で、担当と曜日を決める:運用頻度は会社ごとに違います。無理なく続けられる頻度にし、担当者が休んでも止まらない分担にします。
- 月に一度、数字で振り返る:投稿ごとの表示回数や反応、来店・注文のきっかけを記録し、「何が効いたか」を記録で比べます。
手順 3〜5 の「導線」「頻度と分担」「月に一度の振り返り」は、当社が自社で開発したツール「Ritomira」で一元管理できます。投稿の反応を数字で見比べ、予約投稿まで WEB 上で進められます。
FAQ
Q1. フォロワーが少ないうちは、やる意味がありませんか
あります。事例1のありの子が示すように、判断軸はフォロワー数ではなく「見込み客に届いているか」「来店・購入につながっているか」です。少人数でも、実際の顧客に届いていれば意味があります。
Q2. どのSNSから始めるべきですか
顧客が誰かで決まります。媒体ごとに利用者層は異なるので、自社の顧客が日常的に使っている媒体を1つ選び、来店客への聞き取りなどで確かめてから始めるのが確実です。
Q3. 投稿の効果はどう測ればよいですか
表示回数や反応に加えて、「来店・注文のきっかけがSNSだったか」を受付や注文時に記録することが大切です。事例1のように反応データと売上データを並べて見ると、発信が需要予測や仕入れの判断にも使えます。測り方を決めずに始めると、効果も課題も印象でしか語れなくなります。
Q4. 担当者が営業や広報と兼務でも続けられますか
続けられますが、頻度と分担を先に決めることが条件です。「担当者が休むと止まる」運用は長続きしません。下書き作成や集計に生成AIを使って時間を圧縮し、最終確認は人が行う分担が現実的です。
まとめ
- 顧客側ではSNS利用が82.3%と最も高い利用目的になっており、BtoCの小規模事業者では46.4%がSNSを活用しています
- 成果が出た事例の共通点は、フォロワー数ではなく、届く相手の確認、双方向の発信、購入までの導線、数字での振り返りでした
- 始める前に「誰に・どのSNSで・何につなぐか」を決め、月に一度は記録で振り返ります
投稿の振り返りを数字で行うには、X の分析から投稿までを一元管理できる当社のツール「Ritomira」が使えます。
SNS活用の設計や、日々の運用をどう数字で回すかで迷う方は、NeXus AIの「利益改善診断」への相談をご検討ください。まずは相談から始めましょう。現在の業務と発信の状況をお聞きしたうえで、確認すべき点をご案内します。





