「中小企業のAI導入率は20.4%」という数字を、よく目にするようになりました。一方で、別の調査では16.3%、さらに別の調査では58.1%という数字も出ています。どれが正しいのか、自社はどこにいるのか。ここで迷う方は少なくありません。
結論を先に言います。この数字はどれも誤りではなく、測っているものが違います。20.4%は「AI全般を業務で導入している割合」、16.3%は「生成AIを会社として導入している割合」、58.1%は「生成AIを活用する方針がある割合」です。数字を比べる前に、何を数えたのかを確認することが、自社の現在地を知る最初の一歩になります。
20.4%・16.3%・58.1%は、別のものを測っている
3つの調査を、対象と数え方で並べると次のようになります。
| 調査 | 数字 | 何を数えたか |
|---|---|---|
| 中小企業基盤整備機構(中小機構) | 20.4% | AI技術を用いたサービス全般(画像認識、音声認識、生成AIなど)を、「全社的に」または「一部の業務で」導入している割合 |
| 商工組合中央金庫 | 16.3% | 生成AIを、会社として導入している割合。個人の利用に任せている場合は含まない |
| 総務省 情報通信白書 | 58.1% | 生成AIを「積極的に活用する方針」または「領域を限定して利用する方針」と答えた割合。実際に使っているかどうかではなく、方針の有無 |
3つの調査は、対象とする会社も、調査の時期も、質問の聞き方も違います。そのため、数字を並べて「20.4%と58.1%のどちらが実態か」と比べても答えは出ません。見るべきなのは、それぞれが自社のどの状態に近いかです。
数字を読むときに押さえる3つの違い
1. AI全般か、生成AIだけか
中小機構の20.4%には、画像認識や音声認識などのAIも含まれます。ただし、導入済みの企業で最も使われているAIは生成AIで、82.6%でした。実際には、生成AIが中心です。
2. 会社として導入か、個人の利用か
商工中金の調査では、生成AIを会社として導入している企業は16.3%でした。一方で、「会社としては導入していないが、個人の利用を推奨している」企業は14.9%、「個人の判断に任せている」企業は64.9%でした。会社導入と個人利用の推奨を合わせると約3割(31.1%)になります。
3. 使っているか、方針があるか
総務省の58.1%は、方針の有無です。方針を決めていても、現場で使われているとは限りません。逆に、方針がないまま個人が使っている会社もあります。
現在の使い方と対象業務をお聞きしたうえで、次に決めることをご案内します。
導入している会社は、何に使い、何が変わったか
導入済みの会社が何に使っているかも、公的な調査で確認できます。
| 調査 | 結果 |
|---|---|
| 中小機構:導入目的 | 「業務効率化/作業時間の短縮」が87.0%で最多。2位の「品質向上」は32.3% |
| 中小機構:導入効果 | 「業務効率化/作業時間の短縮」が83.2%。「付加価値創出」はAIが22.3%で、従来のIT(7.4%)を上回った |
| 商工中金:活用内容(積極活用層) | 「メール・報告書・議事録の作成・要約」が74.0%、「デスクワーク作業支援・自動化」が48.7% |
| 商工中金:経営へのプラス効果 | 会社導入では34.6%、個人利用の推奨では24.3%。会社として導入した企業のほうが高い |
使われているのは、文書の作成や要約、事務の定型作業など、バックオフィスの業務が中心です。中小機構の調査でも、導入済み企業の中で「導入している」と答えた割合は、総務・管理部門で68.3%、営業・販売・サービス部門で60.3%、製造・生産部門で34.9%でした。これは導入済み企業の中での割合で、中小企業全体の導入率ではない点に注意してください。
公的な調査に載った活用事例:アイニコグループ
総務省の情報通信白書には、中小企業の事例として、奈良県・京都府南部で住宅、介護、保育などを手がけるアイニコグループ株式会社が載っています。
- 経営者が自ら生成AIを使い始め、社内での活用推進を指示した
- 全社員向けの勉強会のあと、全10事業部から計21名が参加するプロジェクトを1年間実施した
- 週1回1時間ほどの勉強会で進捗を確認し、3か月、6か月、12か月に成果を共有した
- 1年間で、全事業部の合計で年間2,247時間分の業務時間削減につながったと報告された
削減の内訳として、広報部門の業務自動化で年間880時間、不動産事業部門の問合せ対応のテンプレート化・自動化で年間897時間、介護事業部門の送迎ルートの最適化システムの作成などで年間170時間が挙げられています。
安全面は、最低限のルールで始めています。個人情報を入力しないこと、オプトアウト設定を必ず行うことを周知し、新しいツールを使いたいときは専門家に相談して可否を決めています。
この事例から読み取れるのは、特別な技術よりも進め方です。事業部ごとに課題と目標を決め、定期的に確認し、成果を共有する。小さく始めて広げる形でした。
自社の現在地を測る3段階
他社の導入率と比べるより、自社がどの段階にいるかを知るほうが、次の判断につながります。私たちは、AIの使われ方を3段階で整理することをすすめています。
| 段階 | 状態 | 次に決めること |
|---|---|---|
| 1. 自分の業務で使う | 個人が、自分の仕事にAIを使っている | 入力してよい情報の範囲を、紙1枚で決める |
| 2. チームの業務で使う | 同じ業務を担当する人たちが、同じやり方で使っている | 出力を誰が確認するかと、良い成果物の基準を決める |
| 3. 部門・全社で使う | 会社の業務の流れの一部として、AIが組み込まれている | 担当者が変わっても回る手順と、効果の測り方を決める |
3つを混同すると、進めにくくなります。特に注意したいのは、1や2の段階を飛ばして、いきなり3から始めることです。当社では、個人やチームで使い方が固まってから、全社に広げる順番をすすめています。
商工中金の調査で個人利用に任せている会社が6割を超えていたことからも、多くの中小企業が、まず1から2に進む段階にあると考えられます。
自社チェック:6つの確認項目
次の6つに、「はい」か「いいえ」で答えてみてください。「はい」の数で優劣を決めるものではなく、まだ決まっていない項目を見つけるために使います。
| # | 確認項目 | 関係する段階 |
|---|---|---|
| 1 | 会社として使ってよいAIサービスが決まっている | 1 |
| 2 | 入力してよい情報といけない情報が、紙1枚などで共有されている | 1 |
| 3 | 使う業務が1つ以上、具体的に決まっている | 2 |
| 4 | その業務で、何ができたら良いと言えるかの基準がある | 2 |
| 5 | AIの出力を確認する人が決まっている | 2 |
| 6 | 導入前と後を比べる数字(作業時間など)を記録している | 3 |
商工中金の調査では、生成AIの導入・推進での課題として、導入前は「具体的な活用場面が不明」、導入を検討する段階では「導入を推進する人材がいない」、導入後は「社内ルールや方針の整備が追い付かない」が、それぞれ最も多く挙がりました。上の6つは、この3つの壁に対応しています。1・2はルール、3・4・5は活用場面と推進役、6は効果の測り方です。
最初の一歩は、「使う業務」と「確認する人」を決めること
何から始めるか迷うときは、次の2つだけ決めてください。
- 使う業務を1つに絞る(例:会議の議事録、問い合わせへの返信の下書き)
- その出力を確認する人を決める
中小機構の調査では、AIやITの導入について「成功事例や活用事例などの情報が十分に入手できている」と感じていない企業が83.3%に上りました。また、公的支援として「導入事例などの情報提供」を必要とする企業は70.5%でした。情報が足りないと感じるのは、自社だけではありません。
当社NeXus AIでも、対象業務の整理から相談を受け付けています。ツール選びの前に、どの業務で、誰が確認するかを一緒に決めるところから始められます。
FAQ
Q1. 結局、中小企業のAI導入率はどの数字を使えばよいですか
目的によります。AI全般の導入状況を知りたいなら中小機構の20.4%、生成AIを会社として導入している割合なら商工中金の16.3%です。資料に引用するときは、数字と一緒に、調査名と何を数えたかを書いてください。
Q2. 20.4%と16.3%を組み合わせて計算してもよいですか
おすすめしません。調査の対象も時期も定義も違うため、掛け合わせた数字は実測値ではありません。それぞれの調査の数字を、そのまま使ってください。
Q3. 個人が使っているだけでも、導入していると言えますか
調査では、会社として導入している状態とは分けて数えられています。個人の利用は、まず入力してよい情報の線引きを決める段階と考えてください。
Q4. 導入率が低いのは、遅れているということですか
一概には言えません。導入しているかどうかだけでなく、使う業務と確認の流れが決まっているかも、成果に関係している可能性があります。商工中金の調査では、会社として導入した企業のほうが、経営へのプラス効果を感じる割合が高い結果でした。ただし、これは割合の差を示したもので、原因までは示していません。
まとめ
- 20.4%(AI全般の導入)、16.3%(生成AIの会社導入)、58.1%(生成AIの活用方針)は、測っているものが違います
- 導入済みの会社が使っているのは、文書作成や要約、事務の定型作業が中心です
- 自社の現在地は、「自分・チーム・全社」の3段階と、6つの確認項目で測れます
どの業務から始めるか、何を決めておくか迷う方は、NeXus AIの「利益改善診断」への相談をご検討ください。現在の使い方をお聞きしたうえで、次に決めることをご案内します。




